ケース2 卸売業G社 貸与金型の減価償却費の計上が問題に

★法人プロフィール★
山梨県にある船舶や自動車のダイカスト模型の卸売業で、売上規模が約15億円、所得金額は毎期数千万円からl億円程度計上している同族会社である。営業会議で新製品の企画が通ると、台湾のメーカに製造を委託し、全品引取り、日本で販売する。

★調査管の眼★
浅利上席と白魚調査官はいつもの通り、阿波美社長から会社の概況の聞き取りをしたあと、帳簿調査に入りました。浅利上席は、金型の数量が多いのと減価償却費が多額に上っていることがどうも気になるようです。

★どこが問題?★
前回の税務調査で指導を受けたとおりに実施していた当社所有の金型の償却費約50,000千円について、損金算入時期のみならず、減価償却費を計上することそのものが間違っている、金型の減価償却費は原価であるから、販売されていない商品に対応する額は仕掛品とするべきであると指摘された。

★調査の様子★
「浅利上席、今から私どもの業務内容を説明いたしますので、ぜひとも理解していただきたいと思います」と声をかけると、仕事の流れについて話しはじめました。
「まず、どのような船舶、どのような自動車の模型を作るかの企画会議を開きます。企画が通った模型の写真や簡単な図面を船舶、自動車の専門雑誌から収集してきます。
その模型の金型を作るところから一連の作業が始まります。
金型は台湾の模型製造会社に、当社が資金を拠出して作らせています。製造予定の模型の写真や簡単な図面を台湾に送り、台湾で金型を設計、製造し、7、8カ月かけて精密金型を完成させます。
完成した金型は台湾の製造会社にそのまま貸与しているんです。
従って、本体模型の製造が開始されるのは企画から金型製造を経て、約年後ということになります。その模型を日本に全量輸入し、日本で販売しています。
金型を当社の所有資産として管理する理由ですか?台湾での無断製造を防止するためです。
事前に顧客から注文を受け付け、注文数量のみ製造し、すべて売り切り、在庫を持つことはありません。追加の注文もとらず、製品の希少価値性を作出し、高付加価値商品としているからです。
そして大きく深呼吸をし、次のように続けたのです。
「もうご存じだと思いますが、うちは4年前にも税務調査が入りました。そのときも金型の減価償却について指摘を受けました。どんな指摘だったか、ですか?
当社はそれまで新製品の試作品製造に着手したときから、金型の減価償却を開始していたんです。ところが試作から量産体制に入札模型の販売をするのは、試作品製造から約l年後になってしまいます。
製造から販売に至る期間が長いので、貸与金型の償却費を計上する時期と、製品の売上の計上時期の聞に決算期がきてしまい、費用を計上する期と売上を計上する期が、どうしてもずれてしまいます。
課税当局からそこの部分、つまり、『減価償却することについて問題はないが、製品の売上計上時期に比べて、償却開始時期が早すぎますJと指導を受けたのです。売上計上と費用の計上が対応していないというのです。そのときは、確かにそうかもしれないと思いましてね。
それならどうしょうか?ということになって、次のように改善しました。
特別仕様でない通常の船舶や自動車のダイカスト模型を作る場合、金型の減価償却の開始から製品の販売開始までの期間は平均で9カ月です。だったら、製品の販売開始予定日の9カ月前から金型の償却を開始すればいいのではないかとなり、私はその意味はわかりませんでしたが当局の指導どおりに改善しました。それからは償却計算をきちんとしています。なのに、今回は何か問題だというんですか?
不思議なのは4年前の調査で、減価償却費の計上については、何も問題ないとのことだ、ったんです。それをいまさら問題されても非常に困ります。

◎浅利上席の主張◎
――――金型の減価償却費ま償却資産こ加算すベきである。
浅利上席は、社長の説明をむずかしい顔をして聞いていましたが、突然、威圧的な態度で「社長、金型の減価償却費を計上するのはおかしいんじゃないですか、その金型で作る製品はまだ販売してないんでしょう?
穴子先生も聞いてください。
金型の減価償却費は、その製品が完成し売上を計上するまでは費用に計上するのではなくて、棚卸資産として計上するべきではありませんか、期中の減価償却費の計上は認められません。」

「しかし、浅利上席、前回の調査で減価償却費の計上そのものは認められましたよ。」と社長は反論しましたが浅利上席は
「社長、穴子先生、よく考えてみてくださいよ。
貴社は加舶、自動車模型の製造を企画し、その製造を他社に委託していますが、この事業形態は製造業に当たりますよ。製造業と判断するのは製品の製造そのものを企画しているからです。台湾のメーカ はいわれたとおりの作業をしているだけです。企画して他者に製造を委託しているということがそもそも製造業に当たるということです。
従って、貴社は製造業である以上、金型の償却費は直接原価となりますから販売前の模型の金型の減価償却費は全額棚卸資産とするべきでしょう。
そうじゃないですか?
前回調査の指摘は誤りですよ。正しい処理に直さなければなりません。
9カ月償却の損金算入を認めたのは前回調査官の誤りです。」

浅利上席はさらに続けます。
「法人税法22条をよく見てください。第3項に損金とは何かが書いてあります。
3 略……損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
一 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(略)の額
損金とは、原価か、販売費か、一般管理費かの3つしかないでしょう。
わかりますね。考えてみてください。
模型の製造に能う金型の減価償却費は販売費ですか、一般管理費ですか、どちらですか、どちらでもないでしょう。どちらでもないとすれば、あとは原価しかないですよね。
製造原価であれば、その製品が完成するまでは一時の費用とするのではなく、棚卸資産とせざるを得ないでしょう。
しかもこの金型を使ってできる製品が売り出されるのは翌期以降ですよ。
減価償却費の計上を認めたら費用収益が対応しないことになりますよ。
従って金型の償却費を、棚卸資産として計上するべきなんです。」

◎穴子先生の主張◎
――――貸与資産は貸与時から減価償却を開始する。
穴子先生は反論を開始しました。
「この金型は当社所有で、台湾製造会杜に貸与しているものです。貸与資産の減価償却費を計上しているという認識でいます。
当社は金型を台湾製造会社に貸与し、製造会社が製造に着手した時点を持って貸与金型を事業の用に供した時期と判断し、その時点から償却を開始している。従って何の問題もないと考えています。
当社は前回調査時に貴課税当局から指導を受けたとおりに、減価償却費の計上をしています。前回調査時と当社の業態に変化はまったくありません。
事業内容に述べたとおり、金型は当社が資金を出して台湾製造会社に製作させ、その金型をそのまま製造会社に無償貸与しているものです。
貸与された製造会社がその金型を使用して製品を製造し、当社が全量仕入れているという業務形態です。」

穴子先生も税法の説明を始めました。
「税法上、自己の製造にかかる棚卸資産であれば償却費も当然棚卸資産の取得価額となりますが、製造は台湾の第三者会社であって、当社では製造をしていません。製造途中の仕掛品は台湾にあり、当社にはありません。償却費を配賦しようにも、そもそも、もととなる仕掛品は台湾会社の所有品です。完成して引き取るまでは当社のものとはなっていないんですよ。
この業態は、商社が新製品を企画し、メーカーに製造させ、独占的に仕入れ販売をしているという状況となんら変わりはありませんよね。
商社が金型等をメーカーに貸与して製造させた場合、その償却費を商社が棚卸資産として計上しますか。そんなことはないでしょう。従って、何の問題もないと考えています。」

★結論★
浅利上席と穴子先生のこのやり取りを見て、どう思いますか。非常にむずかしいですよね。
実際、白魚調査官は二人の激しいやり取りを聞いているうちに黙ってしまいました。浅利上席の主張も法律に基づいているので、もっともなように感じますし、穴子先生の主張もいわれてみればそのとおりだな、と思ったためです。
両者とも、自分が正しいと思って議論をぶつけ合っています。
このような議論はどういう風に解決すればよいのでしょうか。
ひとつの方法としては、相手の主張を論破するには、自分の議論が正しいと主張するばかりではなく、相手の主張に矛盾があるという点を指摘することです。
この2人の議論の流れはどうなっているでしょうか。浅利上席の主張はよくよく考えると誘導尋問になっていま
す。
「法律学事典」(有斐閣)によれば、誘導尋問とは尋問者の欲する供述を暗示するような尋問で、質問の中に答えがある、つまり、イエス、ノーで答えられる質問のことを言うとされています。
誘導尋問は必ずしも無効であるということではありませんが、原則として許されません。質問の中に、最初から意図する答えがあってその答えにイエス、ノーで落とし込んでいくわけですから、正しい判断、事実関係の解明にはなりません。裁判では裁判長は誘導尋問を制限することができることとされています。
今回のやりとりでみますと、
・「模型の製造に使う金型の減価償却費は販売費ですか」 は、イエスかノーかで答えられます。
・「模型の製造に使う金型の減価償却費は一般管理費ですか」も、イエスかノーかで答えられます。
・「どちらでもないとすれば、あとは原価しかないこととなりますよね」も、イエスかノーかで答えられます。
すべて誘導尋問となっています。
こう質問されれば、原価であると答えざる得なくなり、「製造原価であれば、その製品が完成するまでは一時の費用とするのではなく、概卸資産とせざるを得ないでしょう。」と言われ、反論もできず浅利上席の用意した落とし穴にはまってしまうこととなります。
最終的には穴子先生の主張が通りました。
普段は優しい浅利上席ですが、今日はなんか変でした。

★税務調査の公式★
1 条文の意図的な読み方に惑わされない。
法人税法22条は、法人税を考えるに当たって基本となる条文です。所得計算の基本概念である益金、損金の意味内容を規定しています。
このような基本条文を自分の意図する方向に曲解しようとすることは許されないことです。

2 誘導尋問を理解し、その震にはまらない基礎的な知識を持つ。
当局の調査官はおそらく意図していないと思いますが、問題となっている事柄の答えについて、あらかじめ選択肢をいくつか周意し、一つずつ消去していきます。最後に自分たちの意図する選択肢に追い込んでいく追い込み漁的なワザには十分注意しましょう。
その調査官も無意識で信じ込んでやっているところが怖いです。

3 製造問屋は製造業ではない。
製造を他社に委託する業態を製造問屋と言います。この製造問屋は日本産業分類によれば、製造業ではなく卸売業に当たります。

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