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個人事業主の必要経費について裁判所はどのように判断していますか?

最高裁判所は、個人事業主である弁護士が弁護士会の会務活動に伴う懇親会費等を支出した事案において、個人事業主の事業所得の計算上必要経費となるかは「事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であること」により判断するとしました。

1.個人事業主の必要経費について争われた事案
個人事業主の支出した費用を事業所得の計算において必要経費として算入することができるかについては、税務調査でもしばしば論点となります。所得税法上、何が必要経費に含まれるかは必ずしも明確ではなく、他方で納税義務者側としては事業に関連するものは可能な限り必要経費として計上することにより節税を図りたいと考えるためです。

以下では、個人事業主である弁護士が弁護士会等の会務活動に関連して支出した懇親会費が必要経費に該当するか争われた最高裁平成26年1月17日決定(以下「平成26年決定」といいます)の事案を紹介します。

(1)必要経費に関する所得税法上の定め
そもそも個人事業主が事業所得等の計算において必要経費として算入すべき金額は、所得税法第37条により以下のいずれかに該当するものと定められています。

・所得の総収入金額に係る売上原価
・総収入金額を得るため直接に要した費用
・その年における販売費、一般管理費
・その他所得を生ずべき業務について生じた費用

(2)問題の所在
平成26年決定では、弁護士が支出した懇親会費等が所得税法第37条に基づき必要経費となる「その他所得を生ずべき業務について生じた費用」にあたるかが争点となりました。

従来は「その他所得を生ずべき業務について生じた費用」にあたるかの判断において以下の2つの要件を満たす必要があるとされてきました。

ア)事業所得との直接関連性
イ)事業遂行上の必要性

このうち、ア)事業所得との直接関連性については、所得税法において明文で定められた要件ではなく、法解釈によって付け加えられてきた要件であったといえます。しかし、この要件を付け加えることは必要経費として認められる範囲を狭くするものであり、納税義務者にとっては不利益となるものです。そこで、このような明文なき要件を解釈により付け加えることが許容されるのかが問題となったのでした。

2.裁判所の判断
平成26年決定の事案は、第1審判決(東京地裁平成23年8月9日判決)においては国側の主張が全面的に認められましたがが、控訴審(東京高裁平成25年9月19日判決)及び最高裁判所は納税義務者である弁護士側の主張を一部認めました。

(1)第1審判決の判断
平成26年決定の第1審では、個人事業主の事業所得の計算上必要経費となるかは「所得を生ずべき事業と直接関係し、かつ当該業務の遂行上必要であること」という従来の2要件により判断するとの枠組みを示し、国側の主張を全面的に認めました。これは、従来の判断を踏襲する考え方です。

(2)控訴審及び最高裁判所の判断
事業所得との直接関連性を要件とする第1審判決に対し、控訴審は、個人事業主の事業所得の計算上必要経費となるかは「事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であること」により判断するとし、事業所得との直接関連性を明確に要件から排除しました。

その上で、以下のとおり述べて、弁護士会役員経験者が弁護士会の会務に関連する費用として支出した懇親会費等の必要経費性を否定した第1審判決を変更しました。

・「弁護士会等の役員等が、所属する弁護士会等又は他の弁護士会等の公式行事後に催される懇親会等、弁護士会等の業務に関係する他の団体との協議会後に催される懇親会等に出席する場合であって、その費用の額が過大であるといえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったと解する」

・「弁護士会等の役員等が、自らが構成員である弁護士会等の機関である会議体の会議後に、その構成員に参加を呼び掛けて催される懇親会等に出席することは、それらの会議体や弁護士会等の執行部の円滑な運営に資するものであるから、これらの懇親会等が特定の集団の円滑な運営に資するものとして社会一般でも行われている行事に相当するものであって、その費用の額も課題であるといえないときは、社会通念上、その役員等の業務の遂行上必要な支出であったと解する」

弁護士会の会務活動は弁護士業そのものではなく会務活動自体から事業所得を得られるわけではありません。しかし、弁護士法第47条に基づき弁護士が弁護士業を行うためには弁護士会への加入が義務付けられています。また、会務活動に関しても弁護士法第24条によれば、正当の理由なく法令により官公署の委嘱した事項及び会則の定めるところにより所属弁護士会又は日本弁護士連合会の指定した事項を行うことを辞することができないと定められています。

したがって、弁護士会の会務活動は弁護士業を行う上で不可欠な活動といえます。そうだとすれば、事業所得を生ずべき業務である弁護士業の遂行上必要であることは明らかです。

一方で控訴審判決は、以下の費用については必要経費性を否定しています。

・懇親会等の後の二次会費用
・弁護士会等の役員等として出席した懇親会等のうち、執行部会とに引き続いて行われたもの及び他の執行部メンバーを慰労するためにホテルの宿泊を伴って行われたもので、他の参加者全員の飲食費用当を負担するなどにより費用額が23万円を超えるものが含まれていたもの

(3)平成26年決定の整理
以上からすると、控訴審は業務上出席が求められる公式行事であれば懇親会費等を必要経費として認めるが、支出費用が過大である場合や二次会や忘年会など私的な交流が主目的といえるような場合には必要経費と認めない考えであると整理することができます。

控訴審判決に対しては、国側が最高裁判所に対して上告受理申立てを行いましたが、最高裁判所が平成26年決定により上告不受理としたことにより控訴審判決が確定しています。平成26年決定は、明文上定められていない事業所得との直接関連性を要件とする従来の判断を覆したものであり、弁護士だけでなく他の個人事業主にとっても大きな意義があります。

なお、本判決はあくまでも弁護士の役員であることを前提とした判断であることに注意する必要があります。すなわち、本判決は弁護士業における弁護士会活動の重要性がポイントとなっています。したがって、例えば任意加入団体である医師会における活動や他のフリーランスの所属する団体での活動に関して同様の判断がされるとは言い切れない点に注意が必要です。他方、税理士会のように弁護士会と同じく強制加入となっている団体における活動に関しては、本事案と同様に必要経費算入の可否が判断される可能性があるといえます。

また、国税庁は、平成26年決定は従来の課税実務を変更するものではないとの立場に立っているようです。したがって、税務調査などにおいては依然として必要経費について同様の問題が生じる可能性は残っています。このため、今後同様の論点が生じた場合には税務訴訟を提起せざるを得ないことがあるでしょう。

3.おわりに
個人事業主の必要経費に関しては税務調査においてもしばしば論点となります。ただ、多くの納税義務者は課税庁の指摘に従ってきたものと思われます。現実問題として個人事業主は納税額がそれほど多くないこともあり、課税庁との解釈の違いをめぐって税務訴訟まで起こすことはほとんどないといっていいでしょう。ここに、税務調査に対して疑義がある場合の納税義務者側の対応の難しさがあります。

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